資産運用系のブログや本で複利効果の説明をする時に、必ずと言っていいほど書かれていることがあります。
「アインシュタインが「複利は人類最大の発明」と言った。」
しかし、残念ながら恐らくアインシュタインはこんなことを言ってはいないと思います。
なにせ、一次ソースを示している記事がひとつもない。
すべてが、又聞きの又聞きのそのまた又聞きの…みたいな記事ばかりです。
念のため英語の記事も読み漁ってみました。
History’s most famous scientist is said to have once described compound interest as “the eighth wonder of the world”.
歴史上もっとも高名な科学者は、複利を「世界の8番目の不思議」と形容した。
“He who understands it, earns it; he who doesn’t, pays it,” Albert Einstein reportedly said.
アインシュタインは「複利を理解するものが大金を手に入れ、理解しないものが損をする」と言ったという。
日本語と状況は一緒です。
「どうやら言ったらしい」という噂だけが独り歩きをしています。
100歩譲ってアインシュタインが「複利はすごい」みたいなことを言ったとしても、ジョークでさらっと言ったとかでしょう。
決して、いま祭り上げられているような趣旨では言っていないと思います。
こういう「一次ソースが無い情報」というのはネットの世界にごろごろ転がっています。
ひと昔前に流行った「エジプトの壁画にも『最近の若者はなってない』と書かれている」みたいなものがその典型。
誰もその文字が書かれた壁画の写真を見たことはないでしょう。
なぜアインシュタインが言ったことになっているのか
なぜこういった与太話が広がっているのでしょうか。
それは、アインシュタインが「複利はすごい」と言ったことにしておいた方が、都合のいい人たちがいるからです。
30年ほど前の本で、「影響力の武器」というものがあります。
この本に書かれていることをざっくりまとめると、以下のようなものです。
- 人間は熟考の上で行動をするのではなく、ある種のスイッチを押されると、自動的に行動してしまう性質を持っている。
- この「スイッチ」には6つの種類がある。そのうちの1つが「権威」であり、人は権威者の言うことを無判断に信じて行動してしまう。
行動経済学でいうところの「ヒューリスティックな判断」と言われているものです。
ちなみにあとの5つは、①返報性(恩返し)、②一貫性、 ③社会的証明(周りへの同調)、④希少性、⑤好意 です。
要するに、「アインシュタイン(=権威ある人)が複利はすごいって言ってますよ」とさえ言っておけば、難しい説明をしなくても「複利ってすごいんだ」と信じてもらえる。
金融商品を売ろうとしている人には大変都合がいい訳です。
- NASAが開発した…
- 東大発ベンチャーの…
- 元マッキンゼー社員が教える…
この辺りのキャッチコピーと同じ話です。
「全米が泣いた」みたいなのも近いものがありますね。
「権威」を仕事で使う場面
これは余談ですが、総合商社で何か新規ビジネスを創ろうとしても、社内を通らないことは頻繁にあります。
市場の成長性や競合の少なさ、既存事業とのシナジーを一生懸命説明しても、なかなか納得してもらえない。
そんな時によく使われるのが、この「権威をかりる」という手です。
有名なコンサル企業を起用して、「この新規ビジネスがいかに優れているか」をコンサルの口から言ってもらう。
決裁者は、社員の言うことは半信半疑で聞きますが、権威あるコンサルの言うことは無判断に信じてしまう、という訳です。
そのためにかかるコンサルフィーが数千万円。なんとも景気のいい話です。
複利の力がすごいのは事実
恐らく、アインシュタインは「複利は人類最大の発明」などとは言っていません。
しかし、複利の力がすごいのは揺るぎない事実です。
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さいごに
いかがでしたでしょうか。
本件に限らず、一次ソースに当たるクセはつけておきたいところです。
他人が言うことを無批判に信じてしまうことは避けましょう。
世界にはいい人ばかりでなく、私たちを食い物にしようとしている人が大勢いるわけですから。
お時間のある方は以下も合わせてお読みください。
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