入院するといくらぐらいかかるのだろうか。
貯金で間に合うだろうか?それとも保険に入った方がいいのだろうか。
こういった疑問をお持ちの方も多いと思います。
「差額ベッド代 いくら」などで検索すると、結論が「差額ベッド代もバカになりません、心配な人は保険に入りましょう」となっている記事ばかり出てきます。
保険屋や保険アフィリエイトで稼いでいるブロガーの記事が多いため、当然と言えば当然です。
しかし、本当に差額ベッド代に備えるために保険に入る必要があるのでしょうか?
この記事では、可能な限り客観的なデータから保険活用の要否を検討していきたいと思います。
- 入院すると約20万程度の自己負担が発生。
- 差額ベッド代に備えるために保険に入る必要は全くない。
※毎度のことながら、記事の対象者は日系大手のサラリーマンです。
高額療養費制度でカバーされない費用とは
日本には最強の保険制度である「高額療養費制度」があることは繰り返しお伝えしてきました。
サラリーマンの皆さんの給与明細を見てみると、毎月「健康保険料」という科目で、数千円~数万円が引かれているはずです。サラリーマンは全員、国の運営する「健康保険」に加入しているからです。 この健康保険ですが、とてつもなく手[…]
さて、そんな高額療養費制度ですが、カバー対象外の費用がいくつかあります。
主なものは以下の4つ。
今回は①の差額ベッド代について以下で詳しく述べます。
なお、②の食事代は、(細かいことを省けば)1食460円と負担が軽いこと、また食費は入院していなくても発生するコストであることから、問題とはならないでしょう。
また、③の医療機関までの交通費についても、しょせん数百円程度の話ですので問題とはなりません。
④の先進医療に関しては今回の記事では触れず、別途記事化します。
差額ベッド代とは
通常、入院する際に「部屋代」は請求されませんが、特別な部屋(特別療養環境室)で入院した場合は、追加料金を支払うことになる可能性があります。
これが「差額ベッド代」と呼ばれるものです。
特別療養環境室とは、以下の4つの条件を満たす部屋のことです。
- 病室の病床数が4床以下
- 病室の面積が1人当たり6.4平方メートル以上
- ベッドごとにプライバシーを確保するための設備がある
- 個人用の「私物収納設備」、「照明」、「小机」、「椅子」がある
要するに「普通よりも快適な部屋」に入院する場合は、通常の大部屋との差額分(=差額ベッド代)を支払わなければならない、という訳です。
なお、差額ベッド代には公的保険は適用されず、全額自己負担となります。
そのため、「差額ベッド代に備えて保険に入りましょう!」などというセールストークが展開されています。
しかし、本当に差額ベッド代に保険で備える必要があるのでしょうか?
差額ベッド代はいくらかかる?
差額ベッド代は、1人部屋で1日当たりおおよそ7,800円、4人部屋で2,400円程度かかります。
1人部屋の方が部屋の絶対数が多いため、全体の平均額は約6,200円です。
※厚生労働省資料より
差額ベッド代が発生する2つの条件
さて、特別室に入院したからといって、必ず差額ベッド代が発生するわけでありません。
差額ベッド代がかかるのは、次の2つの条件を満たしているケースだけです。
- 患者が事前に十分な説明を受けた上で、自ら特別室を希望した場合
- 病院側から渡された同意書に署名した上で、特別室に入院した場合
逆に言えば、上記の2つの場合以外は、差額ベッド代を支払わなくてもよくなります。
以下では、差額ベッド代を支払わなくても良い具体例について、見ていきましょう。
差額ベッド代を払わなくていい3つのケース
条件次第で差額ベッド代を支払わなくても良いケースも存在します。
ここでは、その代表的なケース3つをご紹介していきます。
1.同意書による確認が行なわれていない場合
特別室に入院した場合であっても、あらかじめ同意書にサインしていない場合、患者は病院に対して差額ベッド代を支払う必要はありません。
また、たとえ同意書にサインをしていたとしても、特別室や同意書について説明が不十分であったり、差額ベッド代の具体額が明記されていない場合も、「同意の確認が取れていない」とみなされ、支払う必要はないとされています。
2.治療上の都合で特別室に入院した場合
医師が、治療上必要だと判断し、特別室に入院させた場合は、差額ベッド代を支払わなくても良いとされています。
例えば、以下のようなものが「患者本人の治療上の必要性」として挙げられます。
- 救急患者や術後患者など病状が重篤なため安静を必要とする場合
- 救急患者や術後患者など、常時監視や適時適切な看護及び介助を必要とする場合
- 免疫力が低下しており、感染症に罹るおそれのある患者
- 集中治療の実施、著しい身体的・精神的苦痛を緩和する必要のある終末期の患者
- 後天性免疫不全症候群の病原体に感染している場合
- クロイツフェルト・ヤコブ病に罹っている場合
※出典:厚生労働省保険局 『「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について』より
3.病院側の都合の場合
一時Twitterでも話題になりましたが、病院側の都合で特別室に入院したときには、患者は差額ベッド代を支払う必要はありません。
「病院側の都合」の例としては、次のようなものがあります。
- 院内感染を防ぐ目的で、医師が患者の選択によらず特別室に入院させた場合
- 特別室以外が満室である等の理由で特別室に入院させた場合
※出典:厚生労働省保険局 『「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について』より
1回入院すると自己負担はいくらになる?
先ほど、1日当たりの差額ベッド代は平均6,200円と述べました。
さて、それでは1回入院すると、自己負担額は総額でどれぐらいになるのでしょうか。
以下のようなデータがあります。
※出展:生命保険文化センター「生命保険に関する調査」、「生活保障に関する調査(令和元年度)」より当ブログにて作成
これによると、近年の自己負担額は20万円を少し上回る程度だということが分かります。
また、ボリュームゾーンを見てみると、30万円以下が約8割を占めており、100万円以上の負担となるのは3%しかいません。
入院日数は短期化傾向
ちなみにですが、入院日数自体も短期化の傾向にあります。
※厚生労働省「病院報告」より
もっとも一般的な「一般病床」の場合、直近の平均入院日数は16日まで下がってきています。
入院日数の短期化の理由として、大きく2つがあげられます。
- 医療技術が進歩しているから
- 政府が入院日数を短期化する政策を打ち立てているから
2000年代から始まった医療費改革の一環として、DPC制度(入院医療費の包括支払制度)というものが導入されました。
細かくは割愛しますが、患者を長期で入院させるよりも、手厚いケアを施して短期で退院させて病床の回転率を上げる方が、病院の収入が増える仕組みとなっています。
病院は経営状況が切迫していることも多く、経営改善のために入院の短期化に取り組んでいることもあり、入院日数はどんどん短くなってきています。
<Todo>DPC制度については、別途記事化します。
仕事ができなくなることの逸失利益は
入院している間は、仕事ができなくなります。
多くの記事は、逸失利益も含めて保険で備えるべき、と言う論調で書かれていることが多いです。
確かに自営業等の場合は当てはまるでしょうが、このブログの対象者はあくまで日系大手のサラリーマン。
働けない期間の給与について、何らかの保障があるはずです。
例えば総合商社の場合、病気や怪我で働けなくなった場合、基本的には給与は変わらず支給されます。(心の病気含む)
詳しくは、会社の給与規定を確認しましょう。年次にもよりますが、給与が支給される期間が半年~3年程度あるはずです
医療保険に入る必要があるか
ここまでをいったん整理しましょう。
- 入院が必要になった場合、高額療養費でもカバーされない自己負担額は平均で約20万円
- 会社に拠るが、大企業の場合は入院している間も給与は支給される
ということで、保険で備える必要は全くありません。
貯金でカバーしましょう。
そもそも保険と言うのは、「万が一が起こった時に経済的に詰む」ことへの備えとして、多額のコストを保険会社に払って加入するものです。
20万円程度の費用に対して、保険という高コストな手段で備えることは、ただ保険会社を肥えさせるだけです。
さいごに
当ブログでは、しつこいぐらいに「医療保険はいらない」と繰り返してきました。
基本的な知識がないと、保険を売る側のかっこうのカモにされてしまいます。
- 高額療養費制度がある。
- 健康保険組合からの給付金(自己負担額が2万円/月)がある。
- 入院しても20万円程度しかかからない。
- 働けない期間も会社から給与が支払われる。
これらを知らないと、不安を煽られ、無駄で割高な保険に入らされてしまいます。
この記事が皆さまのお役に立てたのであれば幸いです。