大学生時代に国民年金を払っていない方は、実に6割以上にのぼるそうです。
中には、こんな方も多いのではないでしょうか。
- 「学生は払わなくていい」という噂もあり、よく分からないけど払っていなかった。
- 社会人になり忘れた頃に「追納してください」という通知が来てドキッとしている。
- 60万円(~100万円超)と高額で驚いているが、追納しないとマズいだろうか。
今回の記事では、学生時代に未納だった国民年金は、追納した方がいいのか?というテーマを、利回りという観点から解説していきます。
そもそも年金の未納は許される?
学生時代に国民年金を納めていなかったのは、「学生納付特例」という制度によるものです。
簡単に言えば、「本来は20歳から年金を払って貰わないといけないけど、学生はお金が無いだろうから、社会人になるまで待ってあげます」という制度。
国民年金の支払額は、誰でも一律で年間約20万円です。
※正確には、21年度の納付額は年間199,320円
例えば4月1日生まれの人が4年制大学をストレート卒業した場合、20歳〜22歳の約60万円が支払いを猶予されます。
院生の場合、20歳〜24歳の約100万円と、猶予額はそれなりの金額となります。
さて、この未納分は、最大で10年間支払いを待ってもらえます。
なお、追納が遅れるほど支払額は少しずつ増え、10年後に追納した場合は約7千円多く支払う必要があります。
では、10年経っても追納しない場合、どうなるのでしょうか。
じつは、何か罰則があるわけではなく、将来受け取る年金が減るだけです。
・追納しなくても罰則はない。
追納しないと年金はいくら減る?
さて、それでは国民年金を追納しない場合、将来受け取る年金はいくら減るのでしょうか。
例えば3年間未納の場合、下図の通り年間の受給額が約6万円減少します。
国民年金は65歳から一生涯に渡って受給できます。(※2021年時点。前倒し・繰延受給を選択しない場合。)
74歳までの10年間で受け取る年金の総額は、未納0年と未納3年では6万円×10年=60万円の差が生じます。
このことから「10年で元が取れ、長生きすればするほどプラスになるから、年金は追納しないと損!」という記事が散見されます。
しかし、この主張は以下の3点で正確ではありません。
- 時間的な価値が考慮されていないこと
- 老後まで資金がロックされる点が考慮されていないこと
- 他の投資選択肢との比較になっていないこと
当たり前ですが、30歳時点の60万円と老後の60万円は価値が異なります。
30歳時点の60万円の方が、圧倒的に価値が高いのです。
また、年金を追納した後になって、どうしてもお金が必要になった場合でも「やっぱりあの時のお金を返してください」ということはできません。
年金の前倒し受給もできますが、それも60歳まで待つ必要があります。
老後まで資金を一切引き出せないというのは、大変なデメリットです。
更に、追納をしなければ、60万円でインデックス銘柄などの別の商品に投資できたはずです。
この機会損失も考慮する必要があります。
追納をしないと本当に損なのか?
それでは、①時間的価値、②資金ロック、③機会損失 の3点に注意しながら、追納すべきかどうかを検討していきます。
①時間的価値
さて、今回のように、時点の異なるキャッシュフローの比較をする際に非常に便利なのがIRRという指標です。
IRRとは、資金を複利で運用したときの平均利回りのこと。
詳しくは別の記事で書いていますが、「いくら払って」「いくら貰うか」が分かっていれば、Excelで簡単に算出することができます。
数字は嘘をつきません。しかし、数字を使って嘘をつく人は山のようにいます。いわゆる「ぼったくりの金融商品」を買ってしまう人がいるのは、「数字を使った嘘」が世に溢れているからです。 例えば、数十万部を売り上げた「知らな[…]
それでは、実際に国民年金のIRR(利回り)を算出をしてみましょう。
今回の場合、「追納することによる効果」を切り出して計算しますので、キャッシュフローは以下の通り。
- 30歳時点で62万円*を追納すると(=Cash out)、
*遅延による追加金を含む - 65歳以降、毎年6万円が貰える(=Cash in)
加えて注意が必要なのは、年金納付は節税効果があるという点です。
例えば、所得税23%と住民税10%を払っている人が追納をした場合、62万円×33%=約20万円の節税効果があります。
IRRの計算時には、この節税効果もCash inとして計算します。
以上をExcelに起こすと、以下の通りです。
IRRは、関数を使えばすぐに算出できます。
表内の例で言うと、75歳時点で1.2%。
つまり、30歳から75歳までの期間、利回り1.2%(複利)で運用できたことになります。
では、75歳よりも寿命が短いor長い場合、利回りはどのように変化するでしょうか。
それを表したのが以下のグラフ。死亡年齢別のIRRを表現しています。
早死にをしてしまうと大きくマイナスとなりますが、71歳でIRR0%(=トントン)を超えた後、100歳時点の3.3%に向かってなだらかに上昇していきます。
ただし、これはインフレ率を考慮していない名目の数値です。
IMFの予測値である日本のインフレ率0.6%を加味すると、実質的なIRRは以下となります。
年金追納派の記事では、「国民年金は一生貰えるから、長生きをすればするほど得!」という主張を見かけます。
しかし、利回りを計算してみると、2.7%の頭打ちに向けて逓増しているに過ぎず、それほどお得感が無いことが分かります。
②資金ロック
さらに、流動性プレミアムを考慮する必要があります。
お金は、「使いたいと思った時に自由に使える」ことに大きな価値があります。
ところが、年金として支払ったお金は、数十年経たないと自分の元に返ってきません。
金融の世界では、このように長期間に渡って資金がロックされてしまう場合、「追加のリターンがないと割に合わない」と考えます。
これを流動性プレミアムと呼びます。
詳しくは以下の記事に書いていますが、30年以上の長期に渡って資金ロックされる場合、追加で+1%程度の流動性プレミアムがないと割に合いません。
資産運用系のブログには、ざっくりまとめると大体次のようなことが書かれています。 楽天証券かSBI証券で口座を開きましょう。 S&P500か全世界株式に連動する投資信託(またはETF)に積立投資しま[…]
逆に言うと、長期で資金がロックされてしまう国民年金の実質IRRは、▲1%差し引いて考える必要があります。
「資金を長期間、自由に使えなくなる」というのは、それだけ大きなデメリットなのです。
流動性プレミアムを考慮すると、IRRが0%(=トントン)となる年齢が78歳まで延びてしまうことが分かりました。
しかし、このように考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「これから寿命は更に延びていくのだから、79歳以降のIRRがプラスになるのなら、追納した方が良いのでは?」
この点を以下で検討していきます。
③機会損失
さて、これまで「IRR0%=トントン」と説明をしてきましたが、それは「現金で保有する場合と比較してトントン」という意味です。
当然、現金で保有しておくだけが選択肢ではありません。
当ブログでは、インデックス銘柄に長期投資することをお勧めしています。
例えば、62万円を追納する代わりに、インデックスの代名詞であるS&P500に投資するとどうなるでしょうか。
S&P500は、長期の実質利回りが5~7%あります。
ここでは保守的に、下限の5%で考えてみましょう。
S&P500の利回り5%に対して、国民年金は100歳までの超長期の利回りが1.7%(流動性プレミアム考慮後の実質IRR)。
図にするまでもありませんが、国民年金の利回りがS&P500を超えることは永遠にありません。
ちなみに、62万円を30歳から利回り5%で運用して65歳で売却した場合、286万円になります。
※税金20%を考慮
この金額を国民年金で回収しようと思ったら、112歳まで生きなければなりません。
さいごに
記事の内容をおさらいしてみると、以下の通りです。
- 学生時代の年金は最大10年間支払いを猶予される。
- 追納しなくても罰則はなく、将来の年金額が減るだけ。
- 国民年金の実質利回りは1.7%程度で、S&P500の5~7%には永遠に勝てない。
- よって、追納するお金をS&P500への投資に回した方がお得。
追納しない方が経済的にはお得であることが分かりましたが、他の心配をする方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「年金を追納しないと人が増えると、国民年金制度自体が崩壊するのでは?」
確かに、少し前に年金制度の崩壊懸念がマスコミで取り沙汰されていましたが、国民年金制度は崩壊の危機にあるのでしょうか。
詳しくは別の記事に書きますが、短く結論だけ書いておきます。
- 国民年金は受給額が少し減ることはあっても、崩壊することはあり得ません。
この記事が、少しでも皆さまのお役に立てたのであれば幸いです。
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