インデックス投資の代表格といえばS&P500ですが、その利回りはどの程度なのでしょうか。
何となく7~8%のイメージがありますが、それはあくまでドルで投資を行なった場合の話。
我々は円で投資を行なうため、ドル基軸で値動きをするS&P500に投資する場合、常に為替のリスクにさらされています。
この記事では、円建てでS&P500に投資をする場合、どの程度の期待リターンがあるのかを検証していきます。
S&P500の過去の値動き
未来のことは分かりませんが、過去の水準から期待リターンを推測できます。
S&P500と為替の両方の月次データが拾えたのが71年1月以降だったため、71年以降の数字を用います。
ドル建て・円建てのS&P500推移(1971年以降)
下図をご覧ください。ドル建て・円建てのS&P500の推移です(インフレ率を考慮しない名目値)。
1971年1月を100としています。
ドル建てでは2021年1月時点で4,188(約42倍)、円建てでは1,214(約12倍)になっています。
年平均利回りに直すと、ドル建て7.6%に対して円建て5.0%と2.6ポイントもの差があります。
「こんなにリターンが違うか?」と思った方も多いはず。
それもそのはずで、サンプル数は充分であるものの、71年以降に歴史的な特殊要因が含まれており、円建てリターンを必要以上に押し下げています。
それでは、特殊要因とは何か。
為替の動きを見ていきましょう。
特殊要因を除いたS&P500の推移
為替の推移
円/ドルの為替推移をご覧ください。
期間はS&P500と同じく71年1月から取っていますが、実はこの間に歴史的な為替変動がありました。
細かいものを挙げればきりがありませんが、この50年間の間で、特に大きな為替インパクトをもたらした歴史的な出来事は以下の二つ。
図の③「変動相場制への移行」と、④「プラザ合意」です。
いずれも大幅な円高要因となっています。
71年1月の1ドル=360円から、80年代後半の1ドル150円前後まで、実に200円を超える円高への振れがあり、これが円ベースでの利回りを押し下げています。
その後30年にわたって、110円を平均値として±40円程度の幅に収まっていることを考えると、上記期間の急激な円高フェーズは計算から除いておいた方がよさそうです。
ここでは、30年前の1990年1月を始点としてもう一度分析を行います。
1990年以降のS&P500の推移(1990年以降)
再び、ドル建て・円建てのS&P500の推移です(インフレ率を考慮しない名目値)。
今度は1990年1月を100としています。
この時、ドル建てでは21年1月時点で1,152(約12倍)、円建てでは825(約8倍)になっています。
年平均利回りに直すと、ドル建て8.0%に対して円建て6.9%と、差は1.1ポイント。
「円建ての方がちょっとリターンが悪くなる」という感覚値と概ね整合するのではないでしょうか。
S&P500の平均リターン(1990年以降)
さて、1990年~2021年の期間において、10年・20年・20年の年平均リターンは以下の通りです。
この箱ひげ図では、ある特定の年に投資をした場合の10年後・20年後・30年後のリターンをプロットしたものです。
10年・20年・30年のどの期間をとっても、ドル建てと円建てでは約1ポイントの差があります。
為替のインパクトは▲1%
為替インパクト▲1%と聞いて、「意外とそんなものか」と思った方も多いのではないでしょうか。
基本的に、S&P500のリスクと為替リスクは互いに無関係に動きます。
このように、異なる二種類の変数が無相関である時、合算したリスクは以下の図のように求めます。
ベクトルの考え方ですが、2つの要素が無相関ということは、同じ方向の要素を一切有していない=2つの矢印が直角に交わっている、ということです。
2つの矢印を合成した矢印の長さは三平方の定理で求めますので、実は為替リスクの寄与度は2~3%分しかない、ということになります。
さいごに
改めてこの記事の内容をまとめると以下の通りです。
- S&P500のドル建てリターンはおよそ6~8%
- 円建てリターンは、為替の影響を受け5~7%と▲1ポイント程度
さて、この1ポイントをどう見るか。
長期投資における年平均リターンの1ポイントは非常に大きなインパクトをもたらします。
100万円を一括投資した場合、30年後には約240万円の差になります。
為替をヘッジする投資商品もありますが、その分信託コストが割高となり、こちらも長期での投資成績を押し下げます。
明確な解はありませんが、「為替インパクトによる投資成績の下振れを飲み込む」ということなんだと思います。
アメリカ人ほどの投資成績は諦めましょう。
それでも十分な資産をもたらしてくれます。
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