万がいち自分が死んだときに遺族が路頭に迷わない様に、生命保険に入っている人も多いと思います。
わたし自身、生命保険(収入保障保険)には必ず入っておくべきだと考えています。
ところが、必要以上に保険料を支払っている人が多いのもまた事実。
保険会社に言われるがまま、過度な保障を前提とした保険料になっていないでしょうか?
生命保険は、公的保障(+遺族の給与・貯蓄等)では賄えない部分をカバーする最低限の保障とするのが合理的です。
この記事では、死亡した場合に遺族は国からいくら受け取れるのかについて解説していきます。
少しややこしい話ですが、「知っている」というだけで大きな武器になりますので、お付き合いいただければと思います。
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なお、毎度のことながら、記事の対象者は日系の大手サラリーマンを想定しています。
遺族年金とは
さて、「今この瞬間」に自分が死亡したら、残された遺族にはどのような公的保障があるのでしょうか。
例として、妻33歳で2人の子ども(2歳と0歳)がいる時に、夫が死亡したケースを以下で図示します。
端的に言うと、年齢・状況に応じて3種類の公的保障が受けられます。
- 遺族基礎年金:年78万円+子の加算
- 遺族厚生年金:金額は収入により変動+中高齢寡婦加算(年58万円)
- 老齢基礎年金:年78万円(65歳以降)
①遺族基礎年金には、子供の数に応じて加算金(「子の加算」)が支払われます。
②の遺族厚生年金には、条件を満たせば「中高齢寡婦加算」という加算金が支払われます。
③の老齢基礎年金は、正確には遺族年金ではなく、65歳になったら貰える老齢年金ですが、ここでは一体で解説していきます。
少しややこしいので、ひとつずつ丁寧に見ていきましょう。
1.遺族基礎年金+子の加算
配偶者に先立たれた場合、まず貰えるのが「遺族基礎年金」です。
後述の受給要件を満たす場合、決まった額の遺族基礎年金を受け取れます。
- 子どもがいる配偶者に年額78万円(2020年時点)。
- 子ども1人につき加算金があり、1人目22.5万円/年 ⇒ 2人目22.5万円/年 ⇒ 3人目以降は1人当たり7.5万円/年。
さて、それでは遺族基礎年金を貰うための条件とはどういったものでしょうか。
以下では、①亡くなった人と、②遺族のそれぞれの条件を見ていきます。
亡くなった人の要件
遺族基礎年金を受給するには、亡くなった人が「国民年金保険をきっちりと納めていたこと」が必要です。
「きっちりと納める」とは、以下のいずれかを満たしていたことを指します。
- 死亡した2ヶ月前までの被保険者期間の中で、保険料納付期間と保険料免除期間の合計が3分の2以上であること
- 死亡した2ヶ月前までの1年間に、保険料支払いを滞納していないこと
遺族の要件
遺族基礎年金はそもそも、「遺された子どもを困窮させない」ための制度です。
そのため、支給対象は以下のいずれかに限定されます。
- 18歳未満の子がいる配偶者
- 18歳未満の子ども自身
※正確には、「18歳に達した年度の3月末までの子ども」、つまり高校3年生の3月末です。
また、障害年金における障害等級1級・2級の子供の場合、年齢は20歳まで延長されます。
加えて、「亡くなった人に生計を維持されていた」ことも要件になります。
「生計を維持されていた」とは、原則として遺族が以下のいずれかの収入要件を満たすことを指します。
- 前年の収入が850万円未満
- 前年の所得が655.5万未満
2.遺族厚生年金+中高齢寡婦加算
続いて、遺族厚生年金の説明に移ります。
サラリーマンが死亡した場合には、遺族基礎年金に加え、遺族厚生年金が給付されます。
この遺族厚生年金は、貰える金額が死亡した人の収入によって異なります。(後ほど詳しく見ていきます。)
また、遺族厚生年金には「中高齢寡婦加算」という加算金が用意されています。
前述の通り、①の遺族基礎年金は子どもが18歳までしか貰えません。
その後、65歳になると③老齢基礎年金(後述)が貰えるようになりますが、それまでの期間の収入が減少してしまいます。
中高齢寡婦加算は、この期間のギャップを埋めるものために用意されているのです。
中高齢寡婦加算は金額が固定されており、2020年時点では年約58万円です。
遺族厚生年金の計算方法
さて、遺族厚生年金については、死亡した人の収入によって貰える金額が異なります。
この計算は少し複雑な計算式で算出されます。
以下①と②の合計金額
2003年3月までの平均標準報酬月額×7.125÷1,000×2003年3月までの加入月数×75%
- 2003年4月以降の平均標準報酬額×5.481÷1,000×2003年4月以後の加入月数×75%
※加入月数が300月(25年)未満の場合は、300月とみなして計算
基本的なコンセプトは、「死亡した人が65歳までに生きていれば貰えたであろう老齢厚生年金の75%の金額」というものです。
しかし、計算がかなりややこしいため、平均年収ごとの目安額を示しておきます。
※ここでいう「平均年収」は、「入社以降の平均年収」を意味します。
遺族厚生年金額を「ねんきん定期便」で確認
上述のややこしい計算方法では、遺族厚生年金のおおよその金額しか知ることはできません。
一方、ねんきん定期便を使えば正確な金額を誰でも1分で確認することができますので、大変おすすめです。
ねんきん定期便は、年に一回、誕生月に紙で送られてくるものを確認するか、「ねんきんネット」に登録していればいつでも確認できます。
<Todo>ねんきんネットの登録方法については別途記事化します。
ねんきん定期便で見るところはたったの2か所だけです。
- A:加入月数
- B:老齢厚生年金額
さて、AとBの2か所の数字を確認したら、遺族厚生年金の金額を計算してみましょう。
たったの2 STEP、1分もかからず計算できます。
- STEP1:
まず、Aの加入月数が300月を超えているかどうかだけ確認してください。
(300月を超えているかどうかで、計算方法が異なるためです。)
- STEP2:
Aが300月を超えている場合、B×75%が遺族厚生年金の金額です。
Aが300月未満の場合、B÷A月×300月×75%が遺族厚生年金の金額です。
3.老齢基礎年金
さて、最後に老齢基礎年金です。
この部分は、「遺族自身の」老齢年金です。
そのため、正確には遺族年金とは性質の異なるものですが、公的保障として遺族年金と地続きで給付されるため、ここで説明しておきます。
基礎年金ですので、国民全員が加入している国民年金が財源となっています。
額は基本的には決まっており、2020年時点では年額約78万円と見込まれています。
総額でいくらもらえるか
さて、これまでの話を整理してみましょう。
- 遺族には①遺族基礎年金、②遺族厚生年金、③老齢基礎年金の3つの公的保障がある。
- 貰える金額は、②遺族厚生年金のみが収入により変動。それ以外は固定。
さて、それでは、結局いくら貰えるのでしょうか。
例として、夫が死亡した時点で、妻33歳、2人の子ども(2歳と0歳)、夫の平均年収が700万円だったケースを想定してみると、以下の図の通りとなります。
※年齢や子供の人数、遺族厚生年金の額などはご自身で調整してみてください。
このケースの場合、遺された妻は年齢によって月額11万円~16万円の給付を受けることができます。
・33歳~47歳:月額16万円
・47歳~49歳:月額14万円
・49歳~65歳:月額11万円
・65歳以降 :月額13万円
さいごに
いかがでしたでしょうか。
月額10万円以上の給付が国から貰えるということは、その分は生命保険で備えておく必要が無いということです。
別の記事でも口を酸っぱくしてお伝えしていますが、生命保険は期待値としては大幅なマイナスです。
期待値がマイナスなものに、毎月過度な支払いをしているとしたら、こんなに非合理的なことはありません。
また、遺族年金以外にも、以下の要素を考慮して生命保険の金額を設定する必要があります。
<生命保険の保障額の考え方については別途記事化します。>
- 遺された配偶者が働けるかどうか
- 金融資産の額(貯金・投資)
- 企業年金の受給資格があるか
日系の大手企業では、45歳~50歳ごろから企業の遺族年金の受給資格が発生するケースが多いです。
会社や職掌によって幅がありますが、月額5万円~15万円は受け取れますので、人事や労働組合に確認しましょう。
保険は最低限にとどめ、浮いた分を貯蓄や投資に回せば、ゆとりのある生活にまた一歩近づくことが可能になるはずです。
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